COLUMN

ルーヴル所蔵品に見る突破系アートの面白さ             ②「ミロのヴィーナス」


「ミロのヴィーナス」と聞けば、誰もがすぐにその姿を思い浮かべることができるでしょう。
両腕がない真っ白なヴィーナス像。この彫像も「サモトラケのニケ」同様、ルーヴル美術館では特別な展示をされています。

ルーヴル美術館はコの字型の建物になっていて「シュリー翼」「リシュリュー翼」「ドゥノン翼」の3つのブロックで構成されています。
「ミロのヴィーナス」は「シュリー翼」1F「パルテノンの間」の中心に展示されていますが
この「パルテノンの間」は、細く長い廊下を歩いた先にあります。
その廊下の左右にはありとあらゆるアフロディーテ像(ヴィーナス像)がずらりと並んでいて
それらを抜けた先に圧倒的なラスボス感を放って「ミロのヴィーナス」は立っています。
廊下に並ぶアフロディーテ像の一つ一つも美術品として相当な価値のあるものばかりですが
「ミロのヴィーナス」だけが別格なのです。
ではなぜ「ミロのヴィーナス」だけが特別なのか?

「ミロのヴィーナス」も「サモトラケのニケ」と近い時期の古代ローマ美術のアフロディーテ像です。
この頃のアートの世界は、ある一定のルールに基づいてキャラクターを表現することになっていました。
裸の赤ちゃんが羽根を生やし、頭の上にリングがあれば「エンジェル」として表現されます。
「聖母マリア」は青の装束に身を包み、同じく頭の上にリングがある。この記号で「聖母マリア」であることが明らかとなります。
アフロディーテ像にもその表現にルールがありました。
それは「右手で胸、左手で股間を隠すポーズ」であること。
「パルテノンの間」に続く廊下に並ぶアフロディーテ像はみんなこのポーズをとっています。
クラウドサービスになる前のAdobe Illustratorのパッケージアートで有名な
ボッティチェリ作の「ヴィーナス誕生」で描かれるヴィーナスも右手で胸、左手で股間を隠すポーズをとっています。

さて、両腕のない「ミロのヴィーナス」に腕をつけて同じポーズをとらせるとどうなるか。

「ミロのヴィーナス」は人間の骨格として考えられるどんな腕であっても
絶対にアフロディーテのポーズができない立ち方をしているのです。

アフロディーテのポーズができなければルールから外れているのでアフロディーテ像として認められないのではないか?
しかしポーズ以外(素材、髪型、腰巻の衣装など)はアフロディーテ像としての条件を満たしている。
実際に腕があったらどんなポーズだったのか?
この謎が「ミロのヴィーナス」を有名にした要因なのです。
アフロディーテのポーズができないアフロディーテ像は、古代のアート界の常識を突破した稀有な彫像なのです。

山田(・ω・)ノ

一覧